十枚

1726m

山域:安倍奥

1998.10.31



登山道分岐

紅葉1

紅葉2

安倍奥の山々


山頂からの富士山
静岡市の北方に、南アルプスの深南部より連なる安倍山系がある。 安倍川餅で知られる安倍川の源流部の山々である。 今年の5月に安倍山系の最高峰である山伏に挑戦したのだが、そのときは天候不順により撤退を余儀なくされ、再挑戦を誓って帰って来たのだった。 そして今、再挑戦の時がやって来たのだ。 今回は、初日に名古屋から静岡に入り、同じ山域でこれも以前から気になっていた十枚山に登り、梅ヶ島温泉に宿泊して、翌日に八紘嶺から山伏まで縦走しようという計画だ。 この時期ならば、紅葉も期待出来そうである。

早朝に自宅を出発し、東名高速を東へとひた走る。 静岡ICより梅ヶ島温泉に向かう県道に入り、山間の道をひたすら北上する。 十枚山への玄関口である六郎木に到着したのは、既に10時をまわった頃であった。 多少、焦りをおぼえつつ、関ノ沢集落を抜けて登山口の中ノ段集落に向かう狭い林道を慎重に進むと、30人はいようかという中高年登山者の団体が道を専有して歩いていた。 軽い目眩を感じながら、丁重に道を開けて頂く。 そこから中ノ段入り口の駐車スペースまではすぐだったが、時間が遅いせいもあり既に満車状態であった。 なんとか苦労して、空いているように見える所に車を押し込む頃には、先程の団体様が登山口に向けてお登りになっていかれたのだった。 もう少し上まで車で行けるのではないかと、迷いつつ身支度を整えて早速出発する。 空は秋晴れで展望も期待出来そうだ。 10分程、集落の中の道を登ってから、ふと大事なものを車に忘れて来たのに気がつく。 ちょっと迷ったが車へ取りに戻り、20分のロスタイムである。 気を取り直し、再度歩き始めると、登山届入れと登山口の標識があり、上へ登る枝道がある。 ここから登山道と思い込み道なりに進むと、だんだん道が細く不明確になり、どう見ても谷筋へ下る道である事が判明、引き返す。 これでまた20分のタイムロスである。 既に時刻は12時近く、いまから山登りという時間では無い。 かなり焦りながら、やっと本当の登山口の林道終点に着いた時には12時を遥かに過ぎていた。

ガイドブックによればこの辺りは駐車禁止とあったが、ふと停めてある車のナンバーをみると「名古屋」と書いてあるではないか。 なんかもう山なんかどうでもいい様な気になって来たが、折角来たのだからと気を取り直し、伐採作業の兄ちゃん達の横をすり抜けて山道を歩いて行った。 杉林の中の暗い嫌な道をあえぎながら登って行く。 やっと尾根コースと沢コースの分岐に到着した頃には、1時をまわっていた。 どうせこの時間なら誰も来ないだろうと、登山道の真ん中に腰を下ろし、腹ごしらえを済ませる。 今日はここで止めて明日の計画に全力投球しようかなどという考えが頭に浮かぶが、何故か身体のほうは沢コースに向けて足を踏み出し始めていた。
最初の沢に到着する。 歩き始めてまだそんなにたっていないが、写真撮影だ等とこじつけて休憩する自分が少し情けない。 でも自然はいいなあ、水の流れがある所はもっといいぞ。 こうなったら、全部(3箇所しかないが)の沢で休憩してやるぞ、と変な決意を胸に秘めて再び歩き始めた。 県有林の看板、営林署の標識を過ぎると、2番目の沢である。 またまた休憩タイムで元気を取り戻し周囲を見回すと、このあたりから自然林となり、木々の紅葉も目立つ様になって来た。 快晴の空をバックにした紅葉の色が美しい。 写真を撮りながら進んで行くと、なんて事だろうか、3番目の沢に着いてしまったではないか。 あまり疲れは感じなかったが、全ての沢で休憩すると決意した以上、休憩しない訳にはいかない。 ここから稜線までは登りも急になるしな、等と半ば言い訳くさい事を考えながら、やっぱり休憩をするのであった。

沢を渡り左岸を登ると、テントが張れそうな平地があらわれ、山腹をトラバース気味に登る様になった。 十分以上に休憩して鋭気を養ったので、かえって苦しくなってしまった登りをなんとかこなして、標高1600mの十枚峠に到着した。 雑草や灌木が繁って、いま一つ展望はすっきりしないが、それでも富士山が大きく見えるし、南に連なる安倍山系の山々が美しい。 テントを持って、連なる山々を縦走してみたくなるが、きっとテントの重さに負けてやらないというのもわかっていたので、あまり深くは考えないようにする。 峠で本日何度目になるかわからない休憩を取っていると、何と後続者が現れたではないか。 50歳台の品のよさそうな御夫婦で、休日には二人でこうして山登りを楽しんでいるのだそうだ。 時刻は既に3時を過ぎていたので、重い腰を上げて山頂に向かって稜線を歩き始める。 右手に富士山の雄姿を見ながらの、快適な稜線漫歩である。 笹の間の道を登って行くと30分程で、待望の十枚山山頂に到着した。

こんな時間でも山頂には数名の登山者が、憩いの一時を楽しんでいた。 が、自分が記念撮影を終える頃には、次々と下山を開始して、ついには山頂独り占め状態になってしまった。 人がおおけりゃ煩わしいが、誰もいないというのもまた少し寂しいものがある。 そうこうしてるうちに先程の御夫婦が、山頂に到着したので独占状態はわずか数分で終了した。 富士山や南アルプス、周囲の山々の展望を時間の経つのも忘れて眺めていたが、ふと気がつくとやばい時間ではないか。 すぐに下山しないと、山の中で日暮れを迎える羽目になりそうな時間である。 あわてて身支度をすると、尾根コースで下山を開始した。 でも後から来た御夫婦は、まだのんびりしていた。 大丈夫かなと思いつつ、すぐにその事は頭の片隅に追いやられ、急斜面の下りに集中せざるをえなくなった。
尾根コースは健脚向けというだけあって、急斜面が連続するあまり嬉しくないコースのようで、展望が良かったのも最初のうちだけ、すぐに樹林帯に突入して紅葉もしていない、くすんだ緑色の葉っぱや、既に枯れ落ちた茶色の葉っぱをみながら、単調な下りが延々と続いているのだった。
しかし、植林帯に入るとさらにやっかいな事に、周囲が暗くなり始めたのだ。 所々、道も不明瞭になりコースを外しそうになることもあり、次第に焦りが出始める頃、ようやく昼食を取った分岐に到着した。 ここまで来れば一安心ではあるが、まだ車まで戻るにはだいぶ歩かねばならない。 小休止を取ってから、疲れた足を引きずって下って行くのだった。 ようやく林道終点に到着してみると、伐採の兄ちゃんたちはまだ仕事をしていた。 あとは、中ノ段の長いグネグネ道を駐車場所まで下るだけである。 ところが、ここで新たな敵(?)が出現する。 それは、この辺で飼われている犬である。 人が少ないせいか、放し飼いにされている犬が多く、民家の前を通ると「不審人物じゃー」とばかりに吼え掛かるってくるのである。 さすがに噛みついては来ないが、家の前を通り過ぎても延々と吼え続けるので、大変にうっとうしい。 しかもその吼え声を聞きつけて、次の家の犬がまた吼え掛かってくるのだ。 犬吼え地獄とでも名付けたいようなこの状況は、行きに忘れ物を取りに戻った辺りまで、延々と続いたのだった。 こうして、身も心も疲れた十枚山の旅は終わった。 しかし、明日はメインイベントである山伏が待っているのだ。 本当にこんな状態で、ハードコースを走破出来るのか。 期待と不安を胸にして、梅ヶ島温泉へと車を走らせるのであった。

      「八紘嶺 → 山伏 編」に続く。

P.S.そういえば、あの御夫婦は無事に下山できたのかな?
  

天 候 − 晴れ

コース  − 中ノ段 → 直登コース分岐 → 十枚峠 →
 十枚山 → 直登コース分岐 → 中ノ段